ミレニアル世代の逆転、その陰にある日本の例外

何の記事か

本稿で扱うのは、The Economist 10月17日号のリーダー論説「The comeback cohort」(p.12)と、同号の Finance & economics 記事「Escaping the middle-age trap」(p.63)である。「失われた世代」と呼ばれたミレニアル世代の経済的逆転と文化的復権を、32か国のデータで検証した論説だ。筆者名は示されていない。

要点

1980年代前半から1990年代半ばに生まれたミレニアル世代は、世界金融危機の直後に就職期を迎え、欧州の一部では若年失業率が50%を超えた。ドイツでは同世代の約40%が親と同居し、持ち家の見込みもなく、「失われた世代」と呼ばれた。今日、30~45歳となった彼らの運命は一変し、同年代のどの世代よりも多く稼ぎ、持ち家率でも追いつきつつある。

記事は32の富裕国のデータを集め、物価調整後の所得で前の世代より劣るのはイタリア、ギリシャ、日本の3か国だけだと指摘する。30歳時点でイタリア人はX世代より10%少なく稼いだ。日本では、2019年の35歳の世帯所得が1994年の35歳を下回る。残る29か国では実質所得が前の世代を上回るという。

逆転の要因について記事は、政策による救済ではなく市場と出来事を挙げる。コロナ禍で高齢労働者が早期退職し、経営陣の空白をミレニアル世代が埋めた。テック業界の牽引役であるダリオ・アモデイやマーク・ザッカーバーグ、サム・アルトマンは自身がミレニアル世代だ。文化的にも、YouTubeやNetflixが懐かしさを再生産している。

ここが引っかかった

私はこの記事の明るい結論を、そのまま受け取れない。記事は「ミレニアル世代の見通しは、かつて求められた国家による救済ではなく、市場と出来事によって改善した」と結論づける。だが、それは成長の果実が世代間に分配された国々の話だ。分配が機能しなかった国は、別の道を辿る。その証拠が、記事自身が認める3つの例外、とりわけ日本である。

日本の例外は統計の細部ではなく、構造そのものを示している。35歳の世帯所得が2019年で1994年を下回るという事実は、四半世紀の間に日本の成長の果実が若い世代へ分配されなかったことを意味する。成長そのものがなかったわけではない。分配が世代間で機能しなかったのである。記事はこれを「例外」と片づけるが、私から見れば、これは分配を市場と偶然に任せた場合に起きる当然の帰結だ。

だから私は「頑張れば報われる」という安易な読みに与しない。ミレニアル世代の逆転を支えたのは、彼らの努力だけではない。コロナ禍の早期退職という偶然と、テック産業の急成長という外部条件が大きかった。この構図は、条件が揃った国ではたまたま成立しても、条件が揃わなかった国では成立しない。私は言い切る。世代の逆転は努力の証明ではなく、成長と分配の条件が揃った国でのみ起きる、偶発性を帯びた現象である。

日本(読者の国)にとっての意味

日本は記事が挙げた例外の当事国であり、この論説を額面通りに受け取れない立場にある。ミレニアル世代の所得が前の世代を下回る国で、「市場が救った」という結論は空疎に響く。問題は努力の量ではなく、成長の果実を世代間にどう分配するかという制度の話だ。

日本に必要なのは、ミレニアル世代の成功を祝うことではなく、分配の仕組みを問い直すことだ。雇用・賃金・社会保障・税の設計が、若い世代に果実を届けているか。この検証なしに「市場が救った」と語れば、例外を生んだ構造を見落とすことになる。

誰に読んでほしいか

経済政策と社会保障の制度設計に携わる人に読んでほしい。そして、「上の世代より恵まれている」という実感のない日本の30~40代にも、自分の状況を相対化する材料として手に取ってほしい。

引用

“Policymakers should note that millennials’ prospects improved thanks to markets and events, not the state-funded rescue.”(政策担当者は銘記すべきだ。ミレニアル世代の見通しは、国家による救済ではなく、市場と出来事によって改善した、と)

出典:The Economist, October 17th 2026, p.12

出典:The Economist, October 17th 2026(Leader, p.12 / Finance & economics, p.63)

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